「退去時の立ち会いで、高額なクリーニング代を請求されたらどうしよう」「キッチンの換気扇、中まで油でギトギトだけど、どこまで分解して掃除すればいいの?」
賃貸物件に住んでいると、こうした不安はつきものですよね。特にレンジフード(換気扇)は、構造が複雑なうえに汚れが頑固で、掃除の難易度が最も高い場所の一つです。「完璧にきれいにしなきゃ」と焦って、無理に分解しようとしていませんか?
実は、賃貸における掃除には「やってはいけない一線」と「ここまでやればOKという合格ライン」が明確に存在します。良かれと思って行った掃除が、逆に数百万円単位の賠償リスクを招くことさえあるのです。
この記事では、私が徹底的にリサーチした「賢いレンジフード掃除の境界線」について、賃貸暮らしの方に向けて、法律や費用の観点から分かりやすく解説します。
- 借主が義務として行うべき掃除の正しい範囲
- シロッコファンを分解してはいけない法的な理由
- 退去時のクリーニング特約と費用の関係
- 設備を壊さずにきれいにする安全な手入れ方法
賃貸のレンジフード掃除はどこまでやるのが義務か?
「立つ鳥跡を濁さず」という言葉があるように、退去時には部屋をきれいにするのがマナーです。
しかし、賃貸契約における「義務」となると話は別です。どこまで掃除をすれば敷金が返ってくるのか、あるいは追加請求されないのか。まずはその法的な境界線をはっきりさせましょう。
フィルター掃除の適切な範囲
結論から申し上げますと、賃貸物件において入居者(借主)に求められるレンジフード掃除の範囲は、基本的に「フィルターの洗浄」と「整流板(カバー)を含む外側の拭き掃除」までです。
賃貸契約には「善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)」というルールがあります。これは簡単に言えば「借りている物なのだから、常識的な範囲で丁寧に扱いましょう」という約束です。
レンジフードの場合、日常的に使用していればフィルターに油が付着するのは当然のこと。この日常的な汚れを放置しすぎて、「油が垂れてコンロが汚れた」「換気機能が著しく低下した」といった実害が出た場合は、善管注意義務違反としてクリーニング費用を請求される可能性があります。
しかし、ここで重要なのは「通常の使用に伴う損耗(経年劣化)」は、家賃に含まれているという点です。国土交通省のガイドラインでも、普通に生活していて汚れる範囲の修繕費用は、貸主(オーナー)が負担するのが原則とされています。
つまり、私たちがやるべきは「月に1回程度フィルターを洗い、外側を拭く」ことだけ。これを行っていれば、たとえ内部に多少の汚れが残っていたとしても、法的な義務は十分に果たしていると言えるのです。
原状回復に関する詳細なルールについては、以下の公的なガイドラインが基準となります。
(出典:国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』)
シロッコファンの分解は禁止

SNSや動画サイトでは、主婦や掃除マニアの方が「シロッコファン(内部にある筒状の羽根)」を取り外し、強力な洗剤に漬け込んでピカピカにする動画が人気です。しかし、賃貸物件にお住まいの皆さんは、この真似を絶対にしてはいけません。
なぜなら、シロッコファンは非常にデリケートな精密部品だからです。以下の理由から、専門知識のない入居者が分解することは大きなリスクを伴います。
「中まで掃除しないと気持ち悪い」という気持ちは痛いほど分かりますが、賃貸においては「触らぬ神に祟りなし」。内部の分解はプロの領域であり、借主がリスクを負ってまで踏み込む領域ではないのです。
業者依頼の料金相場と負担

「自分でやるのは怖いけれど、汚れがひどすぎて退去時に揉めるのが嫌だ」という場合、自費でハウスクリーニング業者に依頼することを検討する方もいるでしょう。一般的なレンジフードクリーニングの相場は以下の通りです。
| 依頼内容 | 相場 | 作業時間の目安 |
|---|---|---|
| レンジフード分解洗浄 | 16,000円 〜 22,000円 | 約2〜3時間 |
| キッチン全体セット | 18,000円 〜 26,000円 | 約3〜4時間 |
| 水回り4点セット | 35,000円 〜 50,000円 | 半日〜1日 |
プロに頼めば、専用の洗剤と機材でシロッコファンの内部まで徹底的にきれいにしてくれます。しかし、ここで冷静にコストパフォーマンスを考える必要があります。
もし、あなたが退去する際に「クリーニング代」として敷金から2万円〜3万円が引かれることになっているなら、入居中に自費で2万円を払って掃除をするのは、合計で4〜5万円の出費となり、完全な「払い損」になってしまいます。
「どうしても汚れが気になって生活に支障が出る」というレベルでない限り、退去のためにわざわざプロを呼ぶ必要性は低いと言えます。
退去時の費用負担と特約
賃貸契約において、最も確認すべきは契約書の「特約事項」です。ここにはしばしば、「退去時のハウスクリーニング費用は、汚損の有無にかかわらず借主の負担とする」といった文言が記載されています。
この特約が有効な契約を結んでいる場合、あなたがどれだけ必死に掃除をして、新品同様に磨き上げてから退去したとしても、契約に基づき規定のクリーニング費用は必ず請求されます。
多くの不動産管理会社は、次の入居者のために「プロによる清掃完了」を保証したいと考えています。素人の掃除がどれだけ丁寧でも、プロの基準とは異なるため、結局は業者が入り直すことになるのです。
つまり、特約がある物件においては、退去直前の大掃除は「最低限のマナー」レベルで十分であり、自分の貴重な時間と労力を費やして油汚れと格闘する必要は、経済合理性の観点からは全くありません。
今すぐ賃貸借契約書を確認しましょう。「ハウスクリーニング代:一律〇〇円」などの記載があれば、無理な深追いは禁物です。
推奨される掃除頻度と手入れ

それでは、リスクを冒さず、かつ「汚い」と言われないための賢い付き合い方はどのようなものでしょうか。私の経験とリサーチに基づいた、賃貸居住者に最適なメンテナンススケジュールをご提案します。
レベル1:毎月(必須メンテナンス)
フィルターを外し、中性洗剤とスポンジで洗います。また、整流板(レンジフードの下にある板)の表面と、本体の外側をサッと水拭きします。油汚れは時間が経つほど酸化して落ちにくくなるため、「汚れていない」と感じるうちに洗うのがコツです。
レベル2:半年に1回(推奨メンテナンス)
整流板の裏側や、フィルターの溝など、普段見えない部分をチェックします。40℃〜50℃くらいのお湯に中性洗剤を溶かし、雑巾を絞って拭く「お湯拭き」が効果的です。油は熱で柔らかくなるため、ゴシゴシ擦らなくてもスルッと落ちます。
レベル3:入居時・清掃直後(最強の予防策)
これが最も重要です。掃除が終わったきれいな状態、または入居直後に、市販の「不織布レンジフードフィルター」を必ず装着してください。これを磁石やテープで貼り付けておくだけで、内部のシロッコファンへの油の侵入を9割近くカットできます。「汚れてから掃除する」のではなく、「汚れないようにガードする」。これが賃貸における唯一無二の正解です。
賃貸のレンジフード掃除はどこまでで止めるか
「そうは言っても、今の汚れをなんとかしたい」という方へ。
ここからは、実際に掃除をする際に「どこで手を止めるべきか」、そして「絶対にやってはいけない危険な行為」について、具体的な技術論を交えて解説していきます。
油汚れ用洗剤の選び方と注意

油汚れ掃除というと、「重曹」「セスキ炭酸ソーダ」「オキシクリーン」などのアルカリ性洗剤を使いたくなりますよね。テレビや雑誌でも定番のアイテムですが、賃貸のレンジフードに使う場合は細心の注意が必要です。
多くのレンジフードのシロッコファンやフィルターの枠には、「アルミニウム」という金属が使われています。アルミは酸にもアルカリにも弱い性質を持っており、強力なアルカリ洗剤に長時間つけ置きすると、化学反応を起こして黒く変色(アルカリ焼け)したり、表面が腐食してボロボロになったりします。
一度黒く変色してしまったアルミは、二度と元のシルバー色には戻りません。機能に問題がなくても、見た目が著しく損なわれるため、退去時に「変色による汚損」として弁償を求められるリスクがあります。
賃貸では、素材を傷めない「中性洗剤(キッチンマジックリンやウタマロクリーナーなど)」を使用するのが鉄則です。どうしてもアルカリ洗剤を使う場合は、アルミ製でないことを確認するか、接触時間を5分以内にするなど、徹底した管理が必要です。
部品が外れない時の対処法
大掃除あるあるですが、「シロッコファンの固定ネジ(スピンナー)が、油で固まってビクともしない」という状況に陥ることがあります。これは長年の油汚れが接着剤のように硬化してしまっている状態です。
ネット上では「ドライヤーで温めると油が溶けて外れる」という裏技が紹介されていますが、私はこれをおすすめしません。理由は2つあります。
- 樹脂パーツの変形リスク:最近のレンジフードは樹脂(プラスチック)部品も多く使われています。ドライヤーの熱風を当て続けることで、見えない部分のパーツが溶けたり歪んだりする恐れがあります。
- 怪我のリスク:ドライヤーで加熱された金属部分は高温になります。無理に力を入れて外そうとした瞬間に手が滑り、高温の金属に触れて火傷をする危険性が高いです。
「手で回して外れないなら、そこがあなたの掃除の限界点」と割り切りましょう。無理に工具(ペンチやレンチ)を使って回そうとすれば、軸が歪んだりネジ山が潰れたりして、取り返しのつかない破損を招きます。
「外れませんでした」と管理会社に言う方が、壊して弁償するより100倍マシです。
故障や変色リスクのある方法
良かれと思ってやった掃除が、逆に設備の寿命を縮めてしまうケースがあります。以下のアイテムや方法は、賃貸のレンジフード掃除では「禁止カード」として覚えておいてください。
メラミンスポンジの使用
「水だけで落ちる」でおなじみのメラミンスポンジですが、その正体は硬い樹脂の研磨剤です。近年のレンジフードには、油汚れを浮かせやすくするための「親水性コーティング」や「フッ素塗装」が施されていることが多く、メラミンスポンジで擦ると、そのコーティングごと削り落としてしまいます。結果、汚れが付きやすく落ちにくい状態になってしまいます。
※参考までにリンクを貼っておきます。
スチールたわし・硬いブラシ
焦げ付きを落とすような金たわしや硬いブラシもNGです。表面に無数の細かい傷がつき、その傷の中に油が入り込んで雑菌の温床となります。また、塗装が剥がれた部分からサビが発生し、茶色いサビ水がコンロに垂れてくる原因にもなります。
※参考までにリンクを貼っておきます。
洗剤の直接スプレー
CMのように、換気扇に向かって洗剤を「シュッシュッ」と吹きかけるのは危険です。洗剤液がスイッチの隙間やモーターの軸受けに入り込み、内部でショートして故障する「電気系統のトラブル」を引き起こすからです。
洗剤は必ず、布やスポンジに含ませてから拭くようにしましょう。
入居時の点検と管理会社報告

もしあなたが、これから新しい物件に入居する、あるいは入居して間もないのであれば、今すぐにレンジフードの状態を確認してください。
フィルターを外してみて、内部のファンから油が垂れていませんか?スイッチを入れた時に「キュルキュル」「ゴー」といった異音はしませんか?もし異常があれば、自分で掃除をする前に、必ずスマホで写真や動画を撮って管理会社に連絡してください。
それは「前入居者が残した汚れ」や「経年劣化による不具合」であり、あなたが掃除をする義務はありません。
しかし、報告せずに自分で分解掃除をしてしまうと、後から「あなたが壊したのではないか?」と疑われてしまうリスクが発生します。「入居後1週間以内の現状確認と報告」が、将来のあなたのお財布を守る最強の自衛手段です。
まとめ:賃貸のレンジフード掃除はどこまでが正解か
長くなりましたが、結論をまとめます。賃貸物件におけるレンジフード掃除の正解は、「フィルターと整流板の表面的な美観維持に徹し、危険な内部分解には手を出さないこと」です。
「中まできれいにしたい」という潔癖な気持ちは素晴らしいですが、賃貸住宅はあくまで「借り物」です。完璧を目指して数万円の修理費リスクを負うよりも、日々のフィルター掃除と、数百円の不織布カバーでの予防にお金をかける方が、はるかに賢く、経済的です。
もし内部の汚れがどうしても気になって仕方がない場合は、決して無理をせず、まずは管理会社に相談するか、経年劣化による設備の交換を交渉してみてください。賢く立ち回り、リスクのない快適なキッチンライフを送りましょう。


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